
日帰りだったが久しぶりに本チャンへ行ってきた。今回のK嶋さんの計画書には、「中央カンテ・南稜・(または三スラ・一ノ沢右壁左方ルンゼ)のどれかを現場で判断」ってなっていたが、今の私の力量では、一ノ沢右壁左方ルンゼぐらいか。中央カンテにしても南稜にしても、無雪期に何回か行っているし、冬壁に対してのこだわりがそんなに無い。三スラは私の今の力量では力不足を感じる。結局、私の我儘を通してもらい一ノ沢右壁左方ルンゼとなる。
2/28AM0時、谷川岳ベースプラザに到着。テーブルでは既に数人が酒盛りをしていたが、我々はその裏側でひっそりと闘志を溜めながら寝酒を嗜める。K嶋さんの横でベットメーキングをしていたが、ここのベースプラザの床暖房は効き過ぎており暑くて寝られなくなるので、トイレ近くのスロープ踊り場に移動。作り直し熟睡させてもらう。
4時起き5時過ぎに星空の下を出発。新月なので月の光に邪魔されることのない天空一杯に星がまたたいている。ヘッデンをつけながら一ノ倉沢の出合まで約1時間。マチガ沢過ぎる辺りからようやく空が白みはじめ一ノ倉沢出合に到着したときは、快晴の一ノ倉を仰ぎ見ることができた。やはり暖冬なのだろう。いつもの年なら出合にはデブリの壁があるはずなのに、沢筋に水が流れているのが見えている箇所もあるではないですか。これが2月の谷川だとは信じられない。装備を点検しアイゼンをつけて6時半に一ノ沢に向かって出発。
一ノ沢の出会いすぐ上で、一人突っ立っている中年クライマー(私も中年だが。)が、一ノ沢右壁左方ルンゼ近くまで行ったが、ベルグラ状態で登れず下りてきたと話している。でも我々はダメ元で取り付きまで行くことにする。上部のシンセンのコルが見え出したあたりまで登ると右側にしっかり凍っているルンゼが見え出した。取り付きまで行くと先ほどの話と違いしっかり凍っている。あの下りた先行者はいったいどこを見ていたんだろう。ルートを間違えていたのではないだろうか。
東尾根へ向かうパーティは3パーティほど見受けられたが、このルンゼを登攀しようとする者は、我々だけで独り占め状態。
1P目kinkinリード。アックスはアルパイン要素もあるので1本はベントの緩いDMMとアイス専用に使っているクォーク1本とバックアップにBDのアイスハンアマーを持ってきた。アイゼンはM-10を持ってこようと思ったが、ずっとアイス用にとモノポイントにしていて、デュアルにする時間もなくなってしまった。今回、岩の登攀もあるかもしれないので、代わりに12歯がもう丸くなってしまっているカジタを持ってきた。このアイゼンはしっかり蹴り込まないと浅くて外れてしまうが、私にとっては今回のルートだったらこの平爪アイゼンのほうが安心感はある。今シーズンはアイスの本数が少なかったので、マルチピッチとなるとロングルートになると角度が緩やかであってもキックステップだけだとふくろはぎが吊って、体力を消耗させてしまい、1本登ったら息がすぐにあがってしまっていた。1P目のビレイ点が見つからず川嶋さんの力量だったらこの程度なら落ちることはないだろうとアックス2本を打ち込む。これでビレイをしていたことはしていたが、あまり信用がおけない。
2P目ここもリードさせてもらう。1P目から緩いルンゼを少し上がったところに左の露岩にビレイ点があり、そこから50m一杯のところにスクリュー2本を入れ込んでアンカーとする。登っている途中で脱いだオーバー手袋を懐に入れていたのを落としているのをビレイしている川嶋さんに云われるまで気づかず、片方を1P目の終了点近くまで転がり落ちていってしまった。川嶋さんにご苦労ですが下降して取りに行ってもらう。すいませ~ん。
3P目川嶋さんとリード交替して氷の弱点を突きながら攀じ登ってもらう。風はなく穏やかな谷川で聞こえるのは、アックスを打ち込む音とアイゼンを蹴りこむ音、それに上からサラサラと伝え落ちてくる雪がリズム良い。
4P目は私がリードし、潅木でセルフをとったときはもう11時半を過ぎていた。「少し休みましょう」と行動食のアップルパンをかじりながら、核心部のF5チムニーにモチを集中させる。
5P目、前回3年前に来たときは、このF5が細くて先行パーティのN保プロがあきらめたので、私も下降したのだった。今回はなんとかして突破して上の雪や氷の状況を把握したい。F5チムニーは上にチョックストーンのような大きな岩がドーンとあり、たしか誰かのブログにチムニー右に残置スリングがあると書かれていたからまだ残っていたら使えるはずだ。チリ雪が定期的に落ちてきている。突き進むと左壁がベルグラ状態と右に残置スリングを見つけ、アックスでテンションをかけながらバックアンドニーのような体制で左壁のベルグラに2本のアックスで氷が厚そうなところに引っ掛ける。
1回目、左のアックスが浅く右のアックスを打ち込もうとしたとしたときに、左が見事にはずれ「アッ」と口走った瞬間に1mほど墜落。幸いK嶋さんの的確なビレイで無傷。
2回目は重いザックをおろしてのリベンジ。同じバックアンドニーで左のアックスを先ほどより更に高く安定した所に打ち込めたので、身体を左壁に移し右手クォークをより深く差し込んで、3手で確実な氷が打ち込める位置まで身体を持ち上げることができる。これで念願のチムニーを乗越すことができた。
乗越したあと雪のルンゼ状をロープを引き上げながら支点を探しながら登ると、左壁にピンが3本と残置スリングを発見。ここでアンカーを取って、K嶋さんと私のザックを待つ。
時間はもう12時半を過ぎていた。
選択肢は二つ。このまま日没になる手前までこの先の一ノ沢・二ノ沢中間稜を詰めて東尾根に突き進みビバークして明日下山する。もうひとつは、一ノ沢・二ノ沢中間稜のコルまで行き、そこを下り湯檜曽のK平さん宅でビールを飲みながら、ゆっくり下山後の語らいをする。当然後者のほうを選択。実は足がかなり疲れており、モチも下がりっぱなしで早く降りたいモードになっているし身体の疲れで重くなっていることは確かなのだ。もう頭の中は、暖かい部屋と冷たいビールがクルクル渦巻いている状態で、ビバークなんかとんでもない。K嶋さんの「山に入ったら最後はピークを必ず踏む」論に申し訳ないが、私の願いをこの場にも押し通させてもらった。
さて下山と決まったが、この中間稜を下りるのもまた大変である。ラッペルを3回つなぎ、途中単独者が登っていたのであろうトレースを見つけ、丁寧にそこを辿る。数メートルのナイフリッジはトレースが残っているものの背中のザックでバランスを崩さないかとヘッピリ腰になりながら渡りきるし、雪壁を右に10mトラバースしないといけない時は、この足元の雪が崩れたら滑落するかもしれないと思うとなかなか足が進まない。慎重に確実に足を置いていって、やっとアイゼンがしっかり利く雪原を下降していくと南稜スラブに到着。このあたりになると標高も低くなってきており、昼間の気温で雪が緩んで足がズボズボ取られ、引き上げるのにパワーロスをして疲れを倍化させてしまう。一ノ倉沢出合が4時40分。日没までにはヘッデンを付けずに登山指導センターに着けた。
ベースプラザに車を取りに行き、水上のK平宅へ直行。一杯の冷えたビールがノドを通っていったときのおいしさは、今でも記憶に残されていた。
最後、ベースプラザで登攀具の解除をしていたら、K嶋さんが22cmアイススクリューを落としてしまった見たい。高価な落し物をしてしまった。残念。
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